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1.遺言の必要性

民法では、各相続人の法定相続分が定められていますが、遺産は現預金だけではありません。不動産、株、借地権など財産評価が難しい遺産も多くあります。そのような遺産を誰がどのように相続するのかについては、民法でも定められていません。
遺産分割については、民法906条に「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」という規定があります。
また、民法907条2項には、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる」と規定されています。
たとえば、被相続人である母が死亡して、相続人は長男、次男、長女の3名という場合で、遺産は母と長男家族が同居していた自宅の土地建物(固定資産評価額1500万円相当)と300万円の預貯金だったとします。

 

 

3名の相続人の法定相続分はそれぞれ3分の1ですので、長男が自宅を単独相続してこれまでどおり自宅に住み続けるためには、次男と長女に600万円ずつ渡さなければなりません(不動産の価格を固定資産評価額で評価した場合です)。遺産の預貯金だけでは賄えないため、長男自身の財産から1000万円も持ち出して次男と長女に代償金を支払わなければ自宅を単独相続することができなくなります。固定資産評価額は時価より低い場合が多いので、次男と長女がもっと多額の取り分を主張してくることも十分考えられます。次男と長女が、「私たちは預金を半分ずつ分けるので、お兄さんが自宅を相続して構わない」と言ってくれれば何の問題もありません。
しかし、そうとは限りません。母親が生きていたときには表だって問題が起こっていなくても、相続が開始したことをきっかけに、母親の手前抑えていた感情が噴出して争いが表面化することはよくあります。また、相続人は長男、次男、長女の3名ですが、遺産相続は家族全体に影響する問題ですから、それぞれの配偶者を始めとする相続人以外の思惑や感情が絡んできて、非常に複雑になります。
次男と長女が、きっちり法定相続分どおりの金銭を要求した場合、長男はどうなるでしょうか。たとえ、長男家族が長年母親の介護をしてきたとしても、次男と長女は県外に持ち家を構えて暮らしており、年に数回も母親の顔を見に来ない関係であったとしても、次男と長女の法定相続分は長男と同じです。
不動産の評価についても意見が分かれ、次男と長女は自宅を売却したお金を3分の1ずつ分けたいと言うかもしれません。
当事者間で遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、最終的に家庭裁判所で審判がなされることになった場合、家庭裁判所が次男と長女の法定相続分を減らして、長男に自宅、次男と長女に預貯金を半分ずつ相続させるという決定をしてくれることはありません。
先程述べたように、民法906条に「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」という規定があります。しかし、相続が開始した後に法定相続分そのものを変更する手段はありません。
相続が開始した後に相続人間の不平等を是正する制度として、寄与分というものがありますが、寄与分は「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」でなければ認められません。いくら被相続人の介護などを行っても、それにより被相続人の財産が維持できた又は増加したことを証明しなければならず、立証の困難もあって、非常に限定的な場合にしか認められていません。

そこで、必要となるのが遺言です。被相続人自身であれば、生前に遺言を書くことによって、民法で定められた相続人の法定相続分を変えることができます。

 

 

このケースの場合は、母親が「自宅の不動産を長男に相続させる。次男と長女には預貯金を2分の1ずつ相続させる」という内容の遺言を書いておけば、長男は次男、長女の同意がなくても、自宅を自分の名義に変更することができます。
もし、次男と長女が遺留分を請求してきたとしても、遺留分は法定相続分の半分ですから、長男は次男と長女にそれぞれ150万円ずつ支払いをすればよいので、遺言がなかったケースと比べて相当負担が軽くなります。母親が遺言を書いておくことによって、次男と長女に母親の意思が明確に伝わり、次男と長女が母親の意思を尊重して遺留分の請求をしない可能性もあります。