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5.親権

母親より父親の方が経済的に裕福であるとか,母親に精神疾患の通院歴がある,生活保護を受けているなどの理由で,父親や父方祖父母が親権を主張することもあります。しかし,離婚による子の負担をできるだけ軽くするために,可能な限り生活環境を変えないということが子の福祉に資すると考えられています。そのため,裁判所で親権を決めるにあたって最も重視されるのは,これまでの生活において主な監護者は誰で,いずれの親が子と精神的結びつきが強いかということで,経済力の有無については,ほとんどの場合,親権を判断する上で大きな要因にはなりません。

これまでの判例では,主に以下の7つを判断基準に,いずれが親権者になるのが「子の福祉」に資するのかを決定しています。

(1) 監護の継続性

現在の監護状態が安定していれば,現在の監護者と子の精神的結びつきができているので,監護者を変更せず,現在の監護状態を継続することが子の福祉の点から望ましいと考えられています。

よって,別居前から現在まで継続して監護している方が親権者に指定されるケースが多いです。

 

(2) 奪取の違法性

現在の監護状態が継続しているとしても,面会交流中に無断で子供を連れ去る,同居親に暴力を振るって子を奪っていったなど,違法な行為によって監護を開始した場合には,親権者としての適格性に問題があるとして,たとえ安定した監護状態が継続していても,その監護状態を尊重するべきではないと判断されるケースがあります。

ただし,子を連れて別居するに至った経緯等については,双方言い分が食い違うケースが多く,一方当事者にとって不本意な別居であっても,必ずしも違法な連れ去りと認定されないケースも多くあります。

 

(3) 母性優先の原則

子が乳幼児の場合,母親の存在が情緒的成熟のために不可欠であるとして,母親優先の原則がとられることが多くありました。

子供が乳幼児の場合,通常は,母親が主な監護者となって身の回りの世話をしていることが多いのが現実です。子供はまず母親との間で基本的な信頼関係を構築し,それを土台として,社会での人間関係を学んで行きます。また,母親と子の精神的結びつきは,父親と子のそれと比にならないほど強いことが多いです。

つまり,単に生物学的な母親だから優先されるのではなく,精神的結びつきの強さという点から,母親が優先されることが多くなっています。

最近は,育児に積極的な父親も増えていますが,そうはいっても母親と父親の役割,子との心理的な親密性というのには違いがありますので,よほど母親の養育態度に問題がない限り,父親が親権者になるケースは少ないのではないかと思います。

 

(4) 監護能力(監護態勢)

親自身の健康状態や経済状態,監護意欲,子に与えられる養育環境,監護を補助する者の有無,監護補助者の健康状態,監護意欲などを具体的に

比較して,いずれが優れているか判断されます。

もっとも,収入が高いか低いかということについてはさほど重要視されていません。また,親権を主張している限り,いずれも監護意欲は高いため,双方を比較して優劣が付けられないケースも多くあります。その場合は,その他の要素から親権者を判断することになります。

 

(5) 面会の許容性

他方の親と子の面会交流を認めることができるか,面会交流に協力的かどうかという点も親権者としての適格性を判断する上で重要な要素となっています。離婚に関する係争中であれば,子供は両親間の紛争の板挟みになって,自分の意思を表明することが難しくなります。子供が同居親に気遣って,別居親と会うことを嫌がることも多くあります。しかし,そのような時でも,子供が嫌がっているからと言って,面会を拒否するのではなく,夫婦としての相手に対する悪感情と切り離して,子供がどのようにすれば別居親と面会しやすくなるかを考え,面会に協力する姿勢が求められます。特に,日本がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に署名した流れをうけて,国内でも別居親と子の面会交流を積極的に促進する運用が採られるようになりました。

 

(6) 子の意思

子が15歳以上の場合,家庭裁判所は監護者の指定その他子の監護に関する処分,親権者の指定や変更にあたり,子の陳述を聞かなければならないとされています。子がおおむね10歳前後以上であれば,意思を表明する能力に問題がないとされ,意見聴取が行われています。もっとも,子が表明した意見をそのまま真意と評価するかどうかについては,子の置かれた環境や紛争の実態などを考慮して慎重に判断する必要があります。そのため,子の意見は一定程度尊重されますが,必ずしも子の意見通りに親権者を指定するとは限りません。

 

(7) きょうだいの不分離

特に幼児期においては,兄弟姉妹と生活を共にすることによって得る人生経験は人格形成において得難い価値があるため,原則として兄弟は分離して養育されるべきではないと考えられています。しかし,子の性別や年齢,それぞれの子と親との関係性によっても様々ですので,その他の要素と比べると親権者を決める上で大きな要素とはされていません。